当院には地域医療研修ということで、2年目の先生方が研修に来られます。私の立場は地域医療の指導医として彼/彼女らに教えるという役割になっています。
2週間~4週間という限られた期間の中で何を地域医療研修の教育のアウトカムにするのか?ということは、研修医が所属している病院の全体のカリキュラムの中で包括的に決まるものではあるのですが、忙しさにかまけて研修病院となかなかディスカッションできないこともあり、当院では独自に(というか勝手に)以下の4つを当院研修のアウトカムとしています。
当院の地域医療研修のアウトカム
- 外来診療において来院した(主に初診)患者に安心して帰宅してもらえる診療を行う。
- 患者中心の医療の方法(Patient Centered Clinical Method)のコンポーネント1について知り、illnessをひもとくためのidea, concern, expectationの質問を診察で使用することができる
- R.Neighbourの診察の5つのチェックポイントについて知り、2つめの「要約」を診察で使うことができる。
- Medical ecologyについて知り、自分が所属する診療現場を客観的に見ることができる。
今回は当院の研修アウトカムそれぞれについて書くというよりも研修医の先生が1〜4の項目に対してどの程度できているのか?ということを評価することについて考えたいと思います。
学習者を評価するとは?
以下の図はGeorge E Millerが1990年に出した論文に載っている三角形です。Miller’s pyramid of competent ミラーのピラミッドとして、医学教育の場面で学習者評価の際に使われる図です。Millerさんご自身はこの三角形をFramework for clinical assessmentと記載されています。学習者を評価をするために、Knows, Knows how, Shows how, Doesのレベルがあり、それぞれ評価する必要があるというものです。
学習者の能力として、知識に関する認知であるknowsのレベル、文脈のある中での認知であるknows howのレベル、設定された場面での技能、行動のshows howのレベル、真の現場での立ち居振る舞いであるdoesのレベルがあります。
物事を知っているknowsのレベルは能力開発の第一歩ではありますが、knowsレベルの評価ではdoesレベルは保証しません。実際の診療現場で身に付けてもらいたい能力を習得していることを評価するには、doesレベルの評価をする必要があります。
逆も然りで、Doesで評価することが他のレベルの評価になるか?というとなりません。「できる」ことが「知っている」ことを保証するわけではないため、包括的な組み合わせが評価の妥当性の点でも必要となります。
なぜ学習者を評価するのか?
そもそもなぜ学習者を評価するのか?ということですが、「学習者の能力が当院の医療の質に直結する」からです。当院での地域医療研修は2〜4週間と短いですが、短い研修期間のなかでも、来院した患者さんに安心して帰宅してもらえるようなコンピテンシーを獲得していただきたいなと考えています。
医師は臨床の現場で活動する際に、医学的な知識、コミュニケーションのようなスキル、自己の診療をメタ的に俯瞰するといった点など多面的な能力が必要とされます。この多面的なコンピテンシーを学習者である研修医の先生たちが有しているかを判定することが学習者評価の目的です。
3つの評価について
評価には以下の3種類があります。
- 診断的評価:学習ニーズを評価する
- 形成的評価:目標であるアウトカムのどこまで学んでいるかを明らかにし、改善点についてフィードバックする
- 総括的評価:プログラム終了時に期待されるアウトカムに到達できているかを判断し、合否や採用の判定を行う
評価というと合否判定のイメージがあるかもしれませんが、地域医療研修研修は不合格・・・ということはありませんので、当院で行う評価は2の形成的評価で、始めに記載した当院アウトカムに近づくようにフィードバックを行うようにしています。
実際にどう評価しているか?
当院の地域医療研修の目標の1ー3がdoes領域であることから、実際に研修医の先生に診察をしてもらいそれをMini-CEXを用いて評価しています。Mini-CEXについてはwebで検索すると出てきます。
具体的には、日本プライマリ・ケア連合学会の新家庭医療専門医の業務基盤型評価についてのページや、専門医機構の総合診療専門医についてのページにpdfが公開されています。新家庭医療専門医の専攻医評価に用いるものはさすが!という内容で診療の深いところまで評価可能ですが、初期研修医レベルを超えていると考えますので、専門医機構のものを使っています(専門医機構も一応後期研修医用ではあるのですが・・・)。
初めはオリエンテーションをしながら今回の研修医がどんなタイプの方なのか?どんなところに学習の興味があるのか?などを確認し、しばらく外来診療を見学していただきます。
実際に学習者である研修医の先生に診察してもらう訳ですが、当院が私の個人経営の診療所であるということもあり、患者さんに私の姿をみせることも重要と考え、研修医の斜め後ろでmini-CEXをつけています。
患者さんに害が及ぶ可能性があるなどの状況以外は、できるだけ指導医は診療に口を挟まず評価に集中します。研修医が助け船を求めてきたら都度対応します。
私の立つ位置は患者さん、研修医のそれぞれや二者の関係によって、より指導医が参加したほうが診療が深まると感じた時などには患者-研修医-指導医で三角形をつくるようにしたり、研修医の非言語メッセージなどを確認したい時は、より患者側へよる、というようにしています。
診察が終わったらできるだけ速やかに評価票をもとに学習者にフィードバックします。評価が学習をドライブする、とはよく言ったもので、Mini-CEXは研修医の先生からも好評です。
私もフィードバックをしているようで、この一連のやりとりの中で逆に教わることも多く、私自身も逆に外来診療を見学させてもらっている学習者にもなれるわけで、こういう道筋で今回の外来診療のゴールにたどり着くのか、と興味深く感じています。
ソロプラクティスでもできる地域医療研修の受け入れについて評価の面から書いてみました。
参考文献
- 指導医のための医学教育学 錦織宏・三好沙耶佳 編 京都大学学術出版会
- 医学教育における学習者の評価① 総論 田川まさみ, 西城卓也 医学教育 2013;44(5):345
- 医学教育における学習者の評価② 各論 錦織宏, 西城卓也 医学教育 2013;44(6):429