プライマリ・ケアの現場で思春期の不登校にどう関わるか?その2

その1では3C+Aでプライマリ・ケアでの不登校を考えてみよういう試みでした。

ここから読み出された方はその1がありますのでそちらもご覧ください。

プライマリ・ケアにおける思春期の不登校でよくある状況(Common)は?

それぞれの個別のケースですので、Commonな状況というのはないのかもしれませんが、思春期がどのような発達経過をたどるのかについて考えることにします。

家族志向性からみた思春期

Dr. Lee Combrinck-Grahamの家族ライフスパイラル図を見ると、思春期は子どもが自立していくために家族の境界を柔軟にし親子関係が遠心的に変わっていく時期になります。

参考文献1p29より

このことも影響していると思いますが、思春期の特徴として大人に対して話をすることに時に消極的であることがあります。診察室でも同様で、医師のopen-ended questionに対して積極的に答える思春期世代は少ないと思います。特に不登校の相談に至っては、学校での仲間関係、学習状況など本人の視点でどうなのか確認したいことはたくさんあります。

話をすることを強制せず、まず簡単に答えられるclosed questionで医療面接を軌道に乗せながら本人が安心して話をできる話題を探る、そしてその話題を共有しながら信頼関係を育み、本人の困っているを共有していくというスタンスが良さそうです。(心理学の領域ではこれをジョイニングjoiningというようです)

また診察室に誰を呼び入れるか?というのも考える必要があります。小児の診療であれば通常、親と一緒に診察することになります。風邪ならば親が待合室で待機し本人が診察室に一人で入ってくるということはあるかもしれませんが、不登校という人生の中で大きな出来事となれば、本人と親が診察室に一緒に入ってくることは当然と理解できます。しかし自立しようとしてる思春期世代ではありますので、本人と親とが一緒に来院しても、本人だけで診察する時間をあえて設ける必要はあると思います。

家庭医として最後に忘れてならないのが、関係者と支持的な関係を維持するということです。自分が思春期の我が子に手を焼いていたり、自身の思春期の経験などから、親や思春期の若者のどちらかに味方しすぎてしまうことがあるかもしれません。初めは一方と良好な関係を築けたとしても、結局うまくいかなくなってつらい思いをしたことは家庭医の研修中に1つくらいはあるのではないでしょうか(私だけでしょうか?)。関係の三角形化に意識をし、良かれと思った行為でどちらかと連合関係をとってしまう罠にはまらないように、親、思春期の若者の双方と支持的な関係を維持するように診療することが大切と思います。

思春期における仲間関係の発達

参考文献2の『思春期学』をみると、発達教育心理学、発達疫学、内分泌学、脳科学、精神病理学など多方面からの思春期の特徴が記載されており、ここで思春期の全般的な特徴を記載することはできません。プライマリ・ケアで相談を受ける際に、今回のケースのように友達関係に関わることがあるため、発達心理学という領域が参考になりそうです。

この領域を眺めますと、ジャン=ジャック・ルソー、ジャン・ピアジェ、ジークムント・フロイト、エリク・エリクソンなどの大家が名を連ねています。私のいま知りたいことからは外れるので、まずは思春期の仲間関係の発達についての考察をおさえます。

仲間関係はギャング・グループ、チャム・グループ、ピア・グループの順に発達し以下のような特徴があるようです。

仲間関係ギャング・グループ
gang-group
チャム・グループ
chum-group
ピア・グループ
peer-group
時期児童期後半
小学校中学年
思春期前半
小学校高学年から中学生
思春期後半
高校生以降
集団構成同性同輩集団
(男子に特徴的)
同性同輩集団
(女子に特徴的)
異性異年齢混合集団
重視されること外面的な同一行動による一体感内面的な類似性、同質性の確認による一体感内面・外面ともに異質性を認め、自立した個人の主体性
集団の性質親や教師が課すルールを破るなど、行動を共にする遊び仲間(徒党集団)同じ趣味関心(タレントの好みなど)やクラブ活動で結ばれる仲良しグループ互いの価値観・理想・生き方などを語り合う対等な集団
共有されるもの行動言葉(仲間内で通じる言葉をつくる)目的
疎外される状況遊びが共有できない言葉が通じない
話が合わない
特になし
(自立した個人として共存)
同調圧力+++-
(集団の出入り自由)
文献2、3より作成

小学校高学年から中学生までのチャム・グループは異質なものを排除しようとする同調圧力が大きい時期ということがわかります。本人からは語られなくても、不登校の相談を受けた際にまず仲間関係に対してアプローチしても良いと思います。(「学校は楽しい?」「好きな話題で話をする友達はいるの?」など)

今回のケースでは

中学生2年生女児。学習上の問題はなく、いじめなどの問題もない。2週間ほど前から学校に行けなくなっているとのことで相談のため、母と本人で受診した。母に診察室からでてもらい本人だけで話をしたところ友達関係が引き金になっていると思うとのことであった。友達とは仲良くしているが、気をつかってつかれてしまう、気軽に話ができないため自分の居場所がないような気がするとのことであった。

今回は母と本人二人で受診され、二人を労ったのちに、母に待合室で待つように話し(「一人で診察する練習をしてみましょう。」など)、思春期の若者と面接しました。簡単に書いていますが、これだけの内容でも本人から語ってもらうのにも、上記を頭の中で考えながらゆっくり進むという感じです。仲間関係の発達からすると、この関係がこれからも続くのではなく、次の異質を認め合える仲間関係がいずれくること、今の本人にとっての気疲れしない安全な場所はどこか、本人に母と共有して良いことは何か、次回の診察についてなどを確認して、本人との面接を終えました。

最後に母ともお話しして、困難な状況を労います。この辺りは3C+Aの最後のAsseementのところでも考えてみたいと思います。(まだ勉強中ですが・・・)

その3では家庭医から児童精神科につなぐべきケースについて考えたいと思います。

参考文献

  1. 松下明翻訳.家族志向のプライマリ・ケア.シュプリンガー・フェアラーク東京.第1版;2006.29,191-207
  2. 笠井清登・藤井直敬・福田正人・長谷川眞理子編.長谷川寿一監修.思春期学.東京大学出版会.初版;2015.
  3. 黒沢幸子.やさしい思春期臨床 子と親を活かすレッスン.金剛出版;2015.
  4. 滝川一廣.子どものための精神医学.第1版.医学書院;2017.387-407
  5. 春日武彦.援助者必携 はじめての精神科.第3版.医学書院;2020.243-252
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