【まとめ】プライマリ・ケアの現場で思春期の不登校にどう関わるか?

不登校を主訴としたプライマリ・ケア思春期は、目の前の若者が最終的に身体的にも心理的にも社会的にも回復し、自らが自分自身のまずまずな状態とはどのようなものなのか?を意味づけできるようになるように、自分が医師として5年でも10年でも関われる限り続けていくもの、というのが現時点での私の理解です。

プライマリ・ケアの現場で思春期の不登校外来の私見

私自身は曜日によっては二人体制で診療ができる日もありますが、基本的にソロプラクティスであり、他の診察とのバランスを考えると20分を超える診察を行うことは難しい状況です。長めにとって15分を1回の診察とするのが現実的なところです。そのような状況でどのように診察するかについての私見をまとめてみます。

  1. 本人と親とが一緒に来院しても、本人だけで診察する時間を設ける
  2. 本人との面接の導入は閉じられた質問(closed question)、ジョイニング(joining)を意識する
  3. 本人、家族にとって何が問題・ゴールなのかを整理して理解する
  4. 自身が立場によって親か思春期の若者のどちらかに肩入れしすぎていないかをモニタリングする
  5. 地域に思春期に対応できる専門家、医療機関などの人的物的リソースを明らかにして自分自身が使えるように一覧化し思春期の不登校を受け止められるように構築する
  6. 複雑性の診療と意識し不適応や行動化・身体化を本人や家族を原因とする単一の問題としない
  7. 本人ができていること、頑張っていることなどsalutogenesisを意識し、それをつなげることで良循環を産み出す

それぞれについて少し補足したいと思います。

1. 本人と親とが一緒に来院しても、本人だけで診察する時間を設ける

不登校という人生の中で大きな問題となれば、本人と親が診察室に一緒に入ってくることは当然と理解できます。親が話したいことだけではなく、本人にも話したいことがあります。思春期は大人への橋渡しの時期でもあり、本人の考え、良識ある判断の範囲内で(ここが家庭医によってもケースによっても異なるでしょうが)親に伝えたくない内容はその秘密を尊重する医師の姿勢は本人にとって安心につながると考えます。

その一方で辛い状況で頑張っている親をねぎらうことは忘れてはなりません。

2. 本人との面接の導入は閉じられた質問(closed question)、ジョイニング(joining)を意識する

その2にも書きましたが、大人に対して話をすることに時に消極的なことが多い思春期世代に対して、話をすることを強制せず、まず簡単に答えられるclosed questionで医療面接を軌道に乗せながら本人が安心して話をできる話題を探る、そしてその話題を共有しながら信頼関係を育み、本人の困っているを共有していくというスタンス(ジョイニングjoyning)を意識したいと思います。

3. 本人、家族にとって何が問題・ゴールなのかを整理して理解する

親にとっては我が子がいつも通り学校へ行き、また学校から帰ってくるという何気ない日常が変わってしまうため、学校に早く行けるようになり今までの日常が戻ってほしいというのが願いであることはよくわかります。

しかし残念ながら、本人のゴールはおそらく登校ではないかもしれません。目の前の若者が身体的にも心理的にも社会的にも回復し、自らが自分自身のまずまずな状態とはどのようなものなのか?を意味づけできるようになった結果として、登校できるようになるということはあるかもしれません。

それは誰にとっての問題なのか?誰にとってのゴールなのか?を自分自身に問いかけながら診療をしたいと思います。

4. 自身が立場によって親か思春期の若者のどちらかに肩入れしすぎていないかをモニタリングする

自分が思春期の我が子に手を焼いていたり、自身の思春期の経験などから、親や思春期の若者のどちらかに味方しすぎてしまうことがあるかもしれません。三者関係の中で初めは一方と良好な関係を築けたとしても、結局うまくいかなくなってつらい思いをしたことは家庭医の研修中に1つくらいはあるのではないでしょうか(私だけでしょうか?)。関係の三角形化に意識をし、良かれと思った行為でどちらかと連合関係をとってしまう罠にはまらないように、親、思春期の若者の双方と支持的な関係を維持するように診療することが大切と思います。

5. 地域に思春期に対応できる専門家、医療機関などの人的物的リソースを明らかにして自分自身が使えるように一覧化し思春期の不登校を受け止められるように構築する

心筋梗塞で搬送する医療機関を病診連携のネットワークで構築するように、思春期の不登校に対応できるネットワークを構築したいものです。

当地では思春期における統合失調症、発達障害、摂食障害、依存症などを疑った時に病院の児童精神科医の予約を直接取るのではなく、一度その病院の小児科医の診察を受けることでスムーズにつながることがある、3000円程度の自費にはなりますが近隣の大学院の臨床心理相談室で臨床心理士の相談を受けることができる、学校担任や養護の先生もむしろ医師からの相談には好意的であるなど、それぞれの地域でできるネットワークを育てていくと少しずつ受け止められることが増えるかもしれません。

6. 複雑性の診療と意識し不適応や行動化・身体化を本人や家族を原因とする単一の問題としない

不登校診療では、本人の志向や家族との関係、友人を含めた学校との関係など、相互作用の関係にある複数の要素が絡み合っています。何かが問題でありそれを解決すればまた登校するようになるということがあれば、おそらく我々が診療するに至っていないと思いますので、不登校診療は家庭医療における「複雑性」の診療と意識することもできると考えます。複雑さの程度はクネビンフレームワークで言えば少なくともComplexケースであることを意識することで、家庭医自身も落ち着いた診療ができるかもしれません。

7. 本人や親ができていること、頑張っていることなどsalutogenesisを意識し、それをつなげることで良循環を産み出す

心理学からの視点として、文献2では「良循環を作り出す」ことを目指しながら関わるとあります。「思春期の不適応や行動化・身体化を単にネガティブなものと意味づけるのではなく、そこにあるポジティブな側面や意味をつかまえ、”良循環”の流れに風向きを変えていく臨床実践が、思春期臨床でもあろう」とあります。

不登校という言葉自体が不-登校というネガティブな表現であり、それを引き起こす病因は何か?と探してしまうpathogenesis(病因論)の考えに私自身なりがちです。病因は何かという問いの答えが治療困難なものである時に無力感を感じるのは想像に難くありません。

むしろ「そんなに大変な中でどうやって乗り越えてきたのですか?」「どうやってそれを続けてこれたのですか?」などの問いかけとしてのcoping question(コーピング・クエスッション)は、本人や親の中に乗り越える力、継続する力が既にあり、それは何か?と探すsalutogenesis(健康生成論)は、その回答として本人や親から発せられる言葉は、医師としての私だけでなく、発した本人、親自身をも穏やかにするのではないか、その先に目指す状態があるのではないか?と考えています。

最後に

不登校の方が増えてきているとは言え、自信を持って不登校の診療を行っていると言う医師はいないと思います。考えるほどに個別性が高く、複雑性も高く、今後のこのお子さんの成長や将来に関わっているかもしれないという責任と重圧、さらにひょっとすると不登校が精神病発症の症状であるかもしれないという臨床的な不確実性などを考えるとさすがの家庭医療専門医ですらも逃げ出したくなるような要素に満ちています。

しかし上記を見てもやはり関わるべき職種として扇の要になるのは家庭医のような気がするのは私だけではないはずです。家庭医自身が不登校診療に一歩踏み出し関わることで救われる思春期のお子さんも確かにいるのではと感じます。

学習場所としての学校の聖域性が低下したことによる不登校の増加(参考文献3)という視点もありますが、親以外の大人社会との接点である学校という場所は思春期にとっても大切なシステムです。我々家庭医は学校にはもちろんなれないわけですが、親以外の大人社会との接点として、大人が見捨てず関わり続けてくれるということは重要であり、また本人がなんとかまずまずの状態で過ごすために関わり続けることで癒し人として、彼ら彼女らが様々な困難を乗り越えているための支えになるのではと感じます。

必要に迫られて思春期のことを勉強し出したわけですが、SNSでその話題を出したところ、様々な助けをいただきました。不登校の若者の助けになるようにと診療している全国各地の諸先生方が普段感じていることや、大学の総合診療科という異なったセッティングでの診療についてコメントをいただけたりしました。また初期研修で苦労を共にした現在精神科のDrからは精神病を疑う際に紹介できる児童精神科を教えていただきました。ありがとうございました。不登校に関わる職種のプライマリ・ケアでの水平統合、垂直統合を進めたいと感じました。

参考文献

  1. 笠井清登・藤井直敬・福田正人・長谷川眞理子編.長谷川寿一監修.思春期学.東京大学出版会.初版;2015.
  2. 黒沢幸子.やさしい思春期臨床 子と親を活かすレッスン.金剛出版;2015.
  3. 滝川一廣.子どものための精神医学.第1版.医学書院;2017.387-407
  4. 春日武彦.援助者必携 はじめての精神科.第3版.医学書院;2020.243-252
  5. 松下明翻訳.家族志向のプライマリ・ケア.シュプリンガー・フェアラーク東京.第1版;2006.191-207
  6. 林野泰明 監訳.実践行動医学 実地医療のための基本的スキル.メディカル・サイエンス・インターナショナル.第1版;2010.101-110

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