事前の問診票で主治医意見書記載のハードルを下げる

医師が記載する書類で主治医意見書という介護保険において必要な書類があります。

みなさんはどうか分かりませんが、私にとっては主治医意見書は記載するのに独特のハードルがあります。そのハードルの高さゆえに、「あとでやる(=ぎりぎりまでやらない)書類番付」の不動の横綱でした。

主治医意見書の特徴(私見)

  1. 記載量の多さ:網羅的な項目でA4用紙2枚分と記載量が多い
  2. 予測不可能性:いつ書類が到着するのか分からない(正確には患者さんの介護保険の期限の60日前から予測は可能だが、それを把握している医師はかなりの少数派)
  3. 緊急度の高さ:その割に記載する期限が短い(書類到着から1週間が目安)
  4. 重要度の高さ:患者さんの介護度が決まる資料のひとつであり、関係各所の中では重要度が高い(と思われる)
  5. 患者数連動性:介護の必要な患者さんの担当数が増えると、書類の依頼も多くなる
  6. 個別性の高さ:それぞれの患者さんの自宅や施設での様子、ADL、認知機能を確認して、必要な介護サービスって何だろうなと思いを巡らせる

つまり、介護の必要な患者さんの担当数が増えると、緊急度と重要度の高い記載量の多い書類が、予測不可能な状態でやってくるという悲しい状況となります。

とくに6番目は書類の難度を上げています。ご自宅に訪問診療中の患者さんは生活状況が分かりますが、外来通院中の方はご自宅でどんな状況で生活しているのか?というのは診察室にいるだけでは分かりにくいのです。先日運良く書類が受診前に届きました。診察時に「ご自宅でお困りのことはないですか?」と本人に聞いても、みなさんほぼ「ないよ」なんです。

それでも真面目な医師達は何とか時間を捻出し、頭をひねり、そして本人の状況を十分把握できていないなあと罪悪感も感じながら記載しているわけですが、時には診療が終わった後に疲労困憊のあまり、エイヤッ、と記載してしまうわけです。(意外にその方が納得の出来になったりするのが難しい)

ということで主治医意見書を記載するのにハードルが高かったのですが、これを下げるべくwebで閲覧できる「主治医意見書問診票」を使ってみることにしました。

検索すると、各自治体の県・市医師会レベルを中心に「主治医意見書予診票」を作成していることがわかりました。全国の家庭医仲間も利用しているようでした。そこで当院でもこれを利用して当院の業務に落とし込み、1ヶ月運用してみて私の満足度は高かったので、記録用に残しておこうと思います。

やったこと

  1. 私が主治医意見書の作成に困っていることを当院スタッフに相談する。
    • 具体的には、主治医意見書は介護度にも影響があり、医師にとっては介護状況を反映して記載したい反面、記載の量が多いわりに提出期限が短く、手強い書類であることの共有
    • 自宅や施設での介護状況を確認する「介護主治医意見書用問診票」を、家族や施設スタッフに記載をお願いし、介護状況と介護サービスの資料にしたいと考えていること
    • 「介護主治医意見書用問診票」の家族や施設スタッフへのお渡し、送付などは事務スタッフでお願いしたいこと
  2. 名古屋市医師会の「介護主治医意見書用問診票」を元に当院用の書類を作成
  3. 主治医意見書を記載する場面ごとに「介護主治医意見書用問診票」を送付し、回収する業務の流れを決める
    • 外来で主治医意見書の記載依頼があった場合
    • (主に外来定期通院中で)主治医意見書が直接当院に届いた場合
    • 訪問診療中の患者さんの場合(当院で介護保険証の有効期限を把握できている)
  4. 回収された「介護主治医意見書用問診票」を元に医師が主治医意見書を記載する

導入後の感想

以前の書類履歴が残っている患者さんは良いのですが、新規の方などで介護認定事務センターからまっさらな主治医意見書が届くと、小学校の夏の読書感想文の原稿を前にした時のように、後でやろうという意識が芽生えてしまいます。

事前にスタッフが主治医意見書の記載について把握しており、「介護主治医意見書用問診票」を用意してくれていることと、家族や施設スタッフ、ケアマネジャーからの視点で診察時間以外の記載があるということは、心理的な負担をかなり減らしてくれました。

医師が記載を開始する際には、参考にそれを入力すれば良い項目もあり、それを足場にして記載の勢いがつく実感があり心地よいです。普段診療していて気づく医学的なこと、その人なりの特徴を記載しようという余裕すらうまれ、主治医意見書作成のハードルが非常に下がりました。

すでに皆さん使われているようで、私のように書類記載に困っている方はあまりおられないかもしれませんが、少しでも心地よく書類が書くための参考になれば幸いです。

参考文献

  • 名古屋市医師会 介護主治医意見書用問診票(2023/10/2アクセス) https://ishikai.nagoya/medicalworker/file/kai_monshin.pdf
  • ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論(2023/10/2アクセス)https://www.seikaisha.co.jp/information/2021/07/05-post-187.html

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